
BMWが検討するEREV(レンジエクステンダーEV)の現在地を整理。i3 REX撤退の背景、PHEVとの違い、シリーズ方式とパラレル方式の技術的差異、欧州規制と市場ニーズから見た今後の発売可能性を詳しく解説する。
はじめに:なぜ今、BMWとEREVが再び語られるのか
ここにきてBMWが再び「EREV(レンジエクステンダーEV)」を検討しているという報道が相次いでいる。
一見すると、かつて撤退した技術への“後戻り”のようにも映るが、実態はまったく異なる。
むしろこれは、電動化が中途半端だった時代の反省を踏まえた、極めて合理的な再設計の動きだ。
電動化の主役がHEVからEVへと移りつつある現在、エンジンの役割は「走るための主役」ではなくなった。
その変化を正面から受け止めたとき、シリーズPHEV、すなわちEREVという構造が再び浮かび上がってくる。
EREVとPHEVの違いを整理する
パラレルPHEVとは何か
現在市場の中心にあるPHEVの多くは、エンジンとモーターがともに車輪を駆動できる「パラレル方式」だ。
高速巡航時にはエンジンを直結させ、燃費効率を稼ぐという思想が色濃く残っている。
この構造は、エンジン車を出発点として電動化を積み上げてきたメーカーにとっては自然な進化だった。
ただし、制御は複雑になり、重量も増え、EVとしての設計自由度はどうしても制限される。
シリーズPHEV(EREV)の基本構造
一方、EREVは構造がまったく異なる。
エンジンは車輪を一切駆動せず、発電に専念する。
走行は常にモーターのみで行われ、ドライバーが感じる挙動はEVそのものだ。
この方式は、EVを主役に据えたときに初めて成立する。
エンジンは「航続距離への不安」を消すための保険であり、走りの主役ではない。
i3 REXはなぜ撤退したのか
失敗の本質は方式ではなかった
BMWがかつて投入したEREVの代表例が、「BMW i3 レンジエクステンダー」です。
このモデルは「EREVは使えない」という評価とともに市場から姿を消した。
だが、その評価は正確とは言い切れない。
問題だったのはEREVという考え方そのものではなく、発電能力の設計にあった。
i3 REXに搭載された0.65Lの2気筒エンジンは、発電量が約25kW前後にとどまり、
高速巡航時の消費電力を賄えなかった。

高速域で露呈した設計ギャップ
欧州の高速道路では120〜130km/h巡航が日常だ。
この速度域では、空気抵抗の影響が急激に増し、必要な駆動出力も跳ね上がる。
i3 REXは市街地では成立しても、高速ではバッテリー残量が減り続ける構造だった。
つまり、失敗の理由は「EREVだから」ではない。
「高速巡航を成立させる発電量を想定していなかった」ことに尽きる。
欧州実用条件から逆算する必要発電量
X3・X5クラスで必要な出力
では、現在のBMW SUVクラスでEREVを成立させるには、どの程度の発電能力が必要なのか。
X3クラスで130km/h(WLTPモードのExtra-Highモード)を維持するには、おおよそ30〜35kWの駆動出力が必要とされる。
X5クラスでは40〜45kWに達する。
発電ロスや補機、余裕分を含めると、X3で45kW級、X5では55〜60kW級の発電能力が現実的な下限となる。
必要とされるエンジン排気量
発電効率を40%前後と仮定した場合、この出力を安定して生み出すには、
1.3L〜1.5Lクラスのエンジンが必要になる。
これはi3 REXとはまったく別物の設計思想だ。
「EREVは非力」というイメージは、過去の一例が固定化された結果にすぎない。
シリーズ方式は本当に時代遅れなのか
日産e-POWERが示した現実
シリーズ方式の完成度を語るうえで、「日産:e-Power」の存在は無視できない。
低中速域では、エンジンを最適回転に固定し、EVに近いレスポンスと静粛性を実現している。
第3世代のe-Powerは高速域の欠点を改善しつつある。
高速燃費だけを切り取れば不利に見えるが、それは「エンジン車的な評価軸」で測った場合の話だ。
パラレル方式の実質的メリット
対照的に、「ホンダ:e:HEV」は、高速域でのエンジン直結を唯一の実利として残している。
市街地ではシリーズ、高速のみパラレルという折衷案だ。
この構造が示しているのは、低中速域ではすでにシリーズ方式が最適解になっているという事実だ。それは、ハイブリッドでは、日本国名No2のホンダも低中速域はシリーズ方式が優位との結果によるものです。
日本メディアが語る「高速燃費批判」の違和感
日本ではe-POWERの高速燃費ばかりが強調される傾向がある。
だが、これは評価軸そのものが古い可能性をはらんでいる。
これは、メディアに造られた「高速域こそエンジン直結が正義」というエンジン延命を意図した情報である。
今後、欧州を中心に規制が進めば、高速走行そのものがEV前提になる。
そうなれば「高速でエンジン直結できるか」という問い自体が意味を失う。
規制と市場ニーズが導く必然的な構造
HEVは主役から外れつつある
CO2規制の強化により、単なるHEVは評価対象から外れつつある。
一方で、充電インフラや心理的不安から、BEV一辺倒にもなりきれない。
EV主役+電欠保険という最適解
この矛盾を解消する構造が、EVを主役に据えたEREVだ。
走りは完全に電動、エンジンは必要なときだけ働く。
制御はソフトウェア主導となり、SDV時代との親和性も高い。
BMWがEREVを再検討する意味
BMWが再びEREVに向き合っているのは、過去への回帰ではない。
i3 REXで露呈した課題をすべて理解したうえでの再挑戦だ。
発電能力を正しく設計し、EVを前提とした車両構造を採れば、
EREVは妥協の産物ではなく、極めて合理的な選択肢になる。
まとめ:増えるのはパラレルPHEVではない
今後増えていくのは、エンジンとモーターが主導権を奪い合うパラレルPHEVではない。
EVを中心に据え、エンジンを裏方に徹したシリーズPHEV、すなわちEREVだ。
BMWの動きは、その現実を静かに物語っているという「まとめ」になります。


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