
BMWが誇る最新の高性能エンジン「S68」は、電動化技術(MHEVおよびPHEVシステム)を組み合わせた新世代のV8エンジンとして登場しました。従来の内燃性能を維持しつつ、EURO 6eや将来的な排出ガス規制にも適合。Mモデルやラグジュアリーモデルの両方に搭載され、性能と環境性能の両立を実現しています。
エンジンの概要と特長
S68エンジンは、BMW M社が開発した4.4リッターV型8気筒ツインターボエンジンで、S63の後継として2022年以降の「M60」「XM」などのモデルに搭載されています。最大の特徴は、従来のガソリンV8をベースにしながらも48Vマイルドハイブリッド(MHEV)システムを組み合わせている点です。
このMHEVシステムは、エンジン前方に組み込まれた電気モーターが発電機とスターターを兼ね、加速時にはブースト機能として最大12kW(約16ps)のアシストを行います。これにより、アイドリングからのトルクレスポンスが向上し、ターボラグの低減にも貢献しています。
また、オイル循環や冷却系統の最適化により熱効率を改善。新設計のクロスプレーン・クランクシャフトと可変オイルポンプ、そして低摩擦仕様のピストンリングなどが採用され、サーキット走行と街乗りの両立を実現しています。
S65との違い
S65エンジンはE90系M3などに搭載されていた自然吸気(NA)の4.0L V8エンジンで、BMWのモータースポーツDNAを象徴する存在でした。一方、S68はターボ+電動化による次世代型であり、基本構造から大きく異なります。
| 比較項目 | S65 | S68 |
|---|---|---|
| 形式 | V型8気筒 自然吸気 | V型8気筒 ツインターボ+48V MHEV |
| 排気量 | 3,999cc | 4,395cc |
| 最高出力 | 420ps / 8,300rpm | 約530ps / 6,000rpm |
| 最大トルク | 40.8kgm / 3,900rpm | 76.5kgm / 1,800〜5,400rpm |
| 過給機 | なし(NA) | ツインターボ(ホットV配置) |
| 電動化 | なし | 48Vマイルドハイブリッド対応 |
| 排出ガス規制対応 | EURO5 | EURO6eおよび将来規制対応 |
S65が高回転・レスポンスを重視した「ドライバーズエンジン」であったのに対し、S68は「パフォーマンスと環境の調和」をテーマに開発されています。高効率ターボのレスポンス向上やMHEVのトルクアシストにより、NA的なスムーズさを電動化技術で再現しています。
主要諸元
| 項目 | S68B44T0(代表仕様) |
|---|---|
| 形式 | V型8気筒DOHC 32バルブ ツインターボ(ホットV配置) |
| 排気量 | 4,395cc |
| 最高出力 | 530ps / 6,000rpm(XM:653ps) |
| 最大トルク | 750Nm(約76.5kgm)/ 1,800–5,400rpm |
| 圧縮比 | 10.5:1 |
| 電動アシスト | 48Vマイルドハイブリッド(最大12kW/200Nm) |
| 過給機 | ツインスクロールターボ ×2(内側配置) |
| 燃料噴射 | 高圧直噴システム(最大350bar) |
| 冷却方式 | 独立2系統クーリング回路 |
| 排出ガス対応 | EURO6e / LEV III準拠 |
メリット、デメリット
メリット
- 環境性能と出力の両立:電動化により燃費と排出ガスを抑えつつ、従来以上のパワーを発揮。
- トルクの即応性:モーターアシストにより、アイドリングから強力なトルクが立ち上がる。
- ホットV構造によるコンパクト化:ターボを内側に配置し、応答性とパッケージ効率を改善。
- サーキット対応の冷却性能:デュアルクーリング回路で高負荷時の安定性を確保。
- 将来のPHEV展開に適合:XMなどでプラグイン化が実現し、次世代Mの基盤となる。
デメリット
- 重量増加:電動化ユニットの追加により、従来のS63より約30kg増。
- 整備コストの上昇:MHEV機構や複雑な冷却システムにより、メンテナンスコストが高い。
- NA特有の回転フィール喪失:S65のような高回転域の「伸び感」はやや控えめ。
- ターボ依存度の増加:レスポンス改善とはいえ、ターボ特性の制御が必要。
よくある質問
Q1. S68エンジンはどの車種に搭載されていますか?
BMW XMをはじめ、M60iを名乗るX5・X6・X7などの上級SUVモデルに搭載されています。M5(G90)にも採用され、プラグインハイブリッド仕様として登場。
Q2. PHEV化されたS68の特徴は?
XMではS68エンジンに電動モーター(約197ps)を組み合わせ、システム出力653psを発揮します。EV走行距離は約80km(WLTP)を確保し、日常走行はほぼEVモードでこなせるため、都市部規制にも対応しています。
Q3. チューニング耐性はどうですか?
S68は高い熱効率と強固なブロック構造を持ち、ECUチューニングでも600ps以上が容易に狙えます。ただし電動補助との制御バランスが重要で、専門知識のあるショップでの施工が推奨されます。
Q4. 今後もV8エンジンは残るのでしょうか?
BMWは2030年頃までV8を存続させる計画であり、S68はその“最終進化形”と位置づけられています。電動化を前提とすることで、内燃エンジンの延命を図る戦略が背景にあります。
まとめ
S68エンジンは、単なる高出力ユニットではなく「環境性能を備えたMエンジン」という新しい方向性を示す存在です。S65のようなピュアNAサウンドは失われたものの、その代わりに電動化による即応性と低排出ガス性能を獲得。これにより、BMWは環境規制が厳しくなる中でも「走る歓び」を維持しています。
今後、S68はPHEVやMHEVを軸に進化を続け、次世代Mモデルの中心的存在として君臨するでしょう。内燃機関の終焉が囁かれる中、S68は“電動化時代の名機”として語り継がれるに違いありません。


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