
BMWベースのトヨタスープラは、2026年に生産中止となります。
次期モデルはどのような形態となるのでしょうか。BMW観点で語ります。
現行スープラは完全なBMW製
ネット上では、現行スープラはトヨタが企画製造設計に全面参画したような文章が踊りますが、完全な誤りです。中身は全面的にBMW製なのです。
- トヨタとBMW提携の内容・背景
- トヨタとBMW提携後の成果・実績
- 次期スープラの行方
上記を解説していきます。
BMWとトヨタの提携4項目とは
2011年12月に、トヨタとBMWは中長期的な協力関係の構築に合意しました。
提携事項4項目
1. FCシステム
- BMWとトヨタは、ゼロエミッション社会の実現に向け、FC技術の普及を共通の目標とし、中長期的な協力を進めていく。
- 2020年を目標に、両社の技術を持ち寄り、FC車の普及拡大を目指し、FCスタック・システムをはじめ、水素タンク・モーター・バッテリーなど、FC車の基本システム全般の共同開発を行う。
- また、FC車の普及に必要な、水素インフラの整備や規格・基準の策定に向け協力していく。
2. スポーツカー
両社は、ミッドサイズのスポーツカーに搭載する共通のプラットフォームのコンセプトを決定するためのフィージビリティ・スタディを開始することで合意。お客様によりご満足いただけるよう、両社の技術と知見を高いレベルで融合していく。
同フィージビリティ・スタディは、本年中に完了する予定。その後、両社は、スポーツカーの共同開発に向けた将来の更なる協力について検討していく。
3. 軽量化技術
強化樹脂など先端材料を活用したボデー構造の軽量化技術の共同開発を行っていく。成果は共同開発するスポーツカーのプラットフォームや両社の他の車種にも織り込む予定。
4. ポストリチウムイオンバッテリー技術
エネルギー密度や燃費の面で、現在のリチウム電池の性能を大幅に超えるリチウム空気電池を共同研究する
スポーツカー共同開発の目的
トヨタとBMWの提携の目的としては「BMW側のスポーツカー製造技術の供与」です。
この背景としては、トヨタとして、スープラは4代目のA80型(1993-2002)で生産を中止しており、当時、すでに時代遅れ感が漂う大排気量のV8NAエンジンのレクサスクーペしか存在していなかったためです。
小型スポーツカーとして86が存在していたものの、スープラ5代目としては役不足だったのです。
そのため、BMWとの利害関係が一致し、BMW製スポーツカーの技術供与を受けることを軸とする提携を実施しました。
しかし、上記解釈は正しくありません。理由は後述します。
BMWとトヨタ提携の具体的成果とは
1.FCシステム搭載車はとっくに完成済だが市販化の障壁
背景として、BMW製水素エンジン搭載車の7シリーズE65は市販化前段階まで進めたものの、多くの課題を抱え市販化を見送った背景があります。
この失敗を糧に水素燃料電池には慎重になっているのがBMWです。
当時、FCシステムついては、トヨタMIRAIによって、市販化に漕ぎつけていたため、次世代技術としてBMWも興味があったが、電動化を推進するBMWとしてはマルチパスウェイには疑問が残っていたのも事実でしょう。
今回の提携により、トヨタMIRAIベースの燃料タンクやFCスタックを用いたBMW試作車を多数リリースしており、すでに技術的な課題は無いレベルでしょう。残る点は、トヨタMIRAIが全く売れていない点が市販化を止めるに値する致命的な要因なのです。
2028年の登場とのニュースも流れていますが、ゴールポストを確実に遅らせる可能性が高いと想定します。
2. スポーツカーはBMW Z4のなんちゃってトヨタ製で完了
この部分は、中身Z4、外観のみスープラのなんちゃってトヨタ製で目的は完了しました。
3. 軽量化技術も進展なし
BMW i3のカーボンシャーシ、レクサスLFAのカーボンシャーシなど、製造技術として両社ともの技術はあるものの、BMW i3の量産台数が一枚上手であったといえます。
ただし、コストの点でその後の提携成果があったとは言えない状況です。
4. ポストリチウムイオンバッテリー技術も出遅れ
既存のリチウムイオンバッテリーの性能向上とコストダウンが進み、次世代バッテリーとなる全固体電池でBMWとトヨタの協業が進んでいるとは言えない状況です。
全固体電池における多数の特許数を保持するトヨタ側が他メーカーに押され気味のようです。
特に日本ではトヨタ製THSがBMWに積まれるという記事がメディア上を踊りましたが、トヨタ製の電動化技術が、BMWに搭載された点は一切見当たりません。
BMW Z4から見たトヨタスープラの中身
トヨタは、BMW2シリーズクーペのスープラ化なども検討したようですが、2ドアクーペのスポーツカーとしては、Z4ベースの方が向いているという判断に至ったようです。
- BMW製直列4/6気筒ターボなどのエンジン
- ZF製8速AT、6速MTなどの駆動系
- BMW製シャーシ、足回り
- BMW製エアコン、オーディオ操作系
- BMW製車載OS
- トヨタ製BMWコンピュータエミュレータ
- トヨタ製メーターパネル
- トヨタ製デザインのスープラボディ
コンピュータエミュレータだけが最大の成果物
中身のハードウエアは、ほぼBMW Z4という内容です。
よって、BMW製ハードウエアをトヨタの整備工場の確認するためには、BMW製のコンピュータ診断機がトヨタの全整備工場側に必要となり、機器設置や操作教育が必要になってしまいます。
そのため、トヨタ側でBMW製コンピュータを外部から操作するハードウエアが追加搭載されているのです。また、トヨタ製エミュレータを介したトヨタ製メーターパネルが搭載されています。
その他は、ウインカーに至る操作系統まで、基本BMW製がそのまま使われているのがスープラです。
このBMW車をコントロールするエミュレータのお陰で、トヨタ的なカスタマイズが出来るのです。
- 高速指示・パラメータは、BMW製ROM・RAMに直接書き込み
- 低速指示・メンテナンスは、トヨタ製エミュレータを介した指示
結果、トヨタ整備工場では追加投資が不要となり、トヨタ言語によって、そのままBMW製スープラのコンピュータの診断・メンテナンスが可能となっているのです。
ハードウエアを共同開発したかのようなキーワードが並ぶネット記事ですが、実態は「BMW製コンピュータのエミュレータを開発したのみ」に留まっているのです。
特長
- BMW Z4とトヨタスープラは、どちららもオーストリアのマグナ・シュタイヤー社(委託請負生産メーカー)において、一貫生産され、BMW工場やトヨタ工場で生産されていない点がポイントです。
- スポーツカーは、生産台数が限られるため委託専門工場での生産が効率的なためです。
- スープラとZ4は、ハードトップのスープラに対し、Z4はソフトトップルーフを採用している点が大きな違いであり、これは、それぞれの歴史に基づいたボディ形状となっている点です。
次期スープラは、どうなるのか
トヨタとしては、GRモデルのラインナップ強化により、GRブランドが定着してきており、低価格版のGRヤリスの登場により、スポーツイメージの拡大にも役立っています。
そのイメージリーダーの頂点に位置するGRスープラですが、中身BMW製というトヨタファンにとっては、耐え難い内容となっています。
レクサスRCベースでスープラを作ることが可能だった
時代背景としては、大排気量・ハイパワースポーツカーを開発する余力が当時のトヨタに無かったのではありません。
- 70/80スープラは北米マーケットをターゲットとしたグランドツーリングカーであり、Z4のようなオープン2シータースポーツカーではない
- Z4ベースは従来コンセプトからも逸脱
- ラージのスポーツカーであれば、2014年登場のレクサスRCベースのスープラを作ることは、容易に可能だった
FCV推進の交換条件がスープラ
よって、トヨタ製FCVをBMW側に採用させるための交換条件として、やむなくBMW製スポーツカーを天下のトヨタが採用するに至ったという流れが妥当でしょうか。
「BMW側にFCVを提供することでFCVの拡大を目論んだトヨタMIRAIが大ゴケ」しています。
BMW製X5水素燃料電池車は、とっくに試作車が完成していながら、市販化は2028年という全くやる気なしの状況です。
まさにFCVを売るために高いツケを払った・遠回りしたと言えるでしょう。
(トヨタ側からみればBMW製Z4を丸ごと買うというプライドの崩壊)
時代が大型スポーツカーを認めない
2026年のZ4やスープラの生産中止は、ICE(純内燃エンジン)廃止の世界的な流れに沿ったものと言えます。フェアレディZやGT-Rも次世代モデルが消滅またはPHEV・BEV化が避けられないでしょう。
高性能なZ4ベースのスープラを市販してしまったがゆえに、トヨタ製の既存エンジンとして、3.5LのV6ターボハイブリッド、2.4Lの直4ターボハイブリッドでは、果てしなく役不足です。
また、新たに燃費に全振りしたスープラなど、誰も求めておらず市場はありません。
このタイミングで大排気量のハイパワーターボエンジンをリリースし、売る市場があっても世界の環境規制が許すことはなく、「スープラは90型をもって残念ながら途絶える」まとめとします。
ただし、フル電動モデルとしてはスーパースポーツが復活できる可能性は残されています。次期スープラはBEVでの登場が現実的でしょう。
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