日本の国内メディアでは「欧州のBEV転換策は“日本車つぶし説”」であるとの論調が王道です。この説に対して異議を唱える国内メディアもあるようです。この状況を解説します。
電動化の推進策は縮小するのか?
【EV不要論の真実】政府主導でクルマの“オール電化”をゴリ押ししてきた欧州はなぜ急にトーンを弱めたのか:jbpress.ismedlia.jpより引用
バッテリー式電気自動車(BEV)の需要の伸びが急激に鈍化、BEV推し政策に乗って巨額投資に走っていた自動車メーカーが次々に戦略の修正を迫られている。急進的なBEV転換政策を打っていた欧州でも目標を巡って分裂の様相だ。BEV不要論すら飛び出す中、果たしてBEVはどのような命運をたどることになるのだろうか
欧州委員会で決定した2035年の乗用車エンジン廃止の規定は、現時点で撤回されていません。
米国、中国でも実施時期は多少前後するものの、電動化・内燃エンジン廃止の方向性は揺らいでいません。これが2024年時点での答えになります。
欧州では環境NGOの勢力が台頭
2010年代前半から、欧州では環境NGOの団体勢力が勢いを増して、フランスやドイツの政治に影響を与えるようになります。
- 内燃エンジン車は、CO2を排出する悪である
- 内燃エンジン車を廃止し、電動化が正義である
- クリーンエネルギーが正義である
世論が環境政策に傾いてきたと見るや、「欧州委員会」が一気に電動化法案にシフトしていきます。
欧州委員会は、欧州連合の政策執行機関。法案の提出や決定事項の実施、基本条約の支持など、欧州連合の平時の行財政運営を担っている。 委員会は27人の委員による合議制である。1つの加盟国につき1人の委員が選出されるが、委員には自らの出身国よりも欧州連合全体の利益の方を代表することが求められている。
この流れの中に内燃エンジン延命の考え方は一切ない
そもそも「CO2を排出するエンジンを悪とする」論法です。
CO2削減にハイブリッド車が有効であるとする考え方は、一切無い事が理解できるでしょう。
この考え方に日本車は一切登場しませんし、ハイブリッド車など、もともと蚊帳の外である事が理解できるでしょう。
2015年のVWディーゼル不正問題はキッカケに過ぎない
VWのディーゼル不正問題は、電動化にシフトさせるキッカケに過ぎず、環境NGOをバックボーンとした欧州委員会を含む、欧州世論・メディアは、一斉に電動化にシフトしていきます。
- CAFE規制によるCO2排出車に対する段階的なペナルティ規制強化策の施行
- 2035年の内燃エンジン車全廃法案の施行
環境NGOのバックには中国の影響か
- 太陽光パネル生産:最大の生産国
- バッテリー資源生産:最大の生産国
- 車載バッテリー生産:最大の生産国
フル電動化を進めると最終的に中国が儲かる仕組みです。環境NGOの背後には中国支援があると考えるのが自然でしょう。
フル電動車で世界トップを牛耳れると考えた欧州メーカー
欧州メーカーでは、2010年代前半にパワー志向型のハイブリッド車生産に漕ぎ着けます。
欧州アウトバーンなどの高速走行主体に見合ったハイブリッド車です。
これは、低速渋滞ユースをメインに燃費効率を高めた日本製ハイブリッド車とは考え方が異なるものです。
この時点で、欧州の環境NGOは、フル電動化が正義であるとの主張を展開したため世論を含む欧州メーカーは、PHEV・BEVへシフトする政策へ一気転換しました。
- 2035年の完全移行を見据え、ハイブリッド車は短命に終わると考えた
- 欧州の高速領域では、ストロングハイブリッド車が燃費向上に寄与しない
- 日本型のハイブリッド車は欧州市場に向かないため、開発する意味もない
- BMWもトヨタとの提携でもトヨタ製THS2を採用せず
- むしろ、PHEV・BEVの開発を優先することが先決
中国製EV台頭は有り得ないと考えていた
当時、中国製BEVが台頭するとは、夢にも思っていなかったのが実態です。
しかし、現在では高関税を課す状態となっており、当初の計画が崩れたというのが現状です。
フル電動化の目途が立った2010年代前半
- 日産がフル電動車「日産リーフ」を英国で市販化:2010年12月
- BMWがフル電動車「BMW i3」の市販化:2013年11月
今の時点で、BMW i3を見れば、カーボンモノコックボディ、2気筒のレンジエクステンダーエンジンなど、日産リーフよりも進んだ先進装備が見られます。
2009年時点でBMWはアクティブハイブリッド車を市販化し、2015年時点では、数車種のPHEV車を市販化するに至ります。
THSの熟成とFCEV化を進めたトヨタとの違い
トヨタは、2014年に未来の車を「水素燃料電池車」と位置付け、BEVを軽視した施策を推進し、大失敗となりました。
この大失敗の結果は、トヨタMIRAI、クラウンFCEVを見れは誰の目にも明らかです。
一方で、THS2の成功により、EV施策よりもHEVの拡大に注力します。
EV低迷ニュースに沸き立つメディア
欧州は2035年に乗用車のエンジン廃止をうたい、アメリカもバイデン政権がそれに追随して大々的なBEV転換策を強行した。よく“ディーゼルで失敗した欧州の日本車つぶし”という説を見かけるが、これは何のファクトもない俗説で、電動化シフトはそれよりずっと前から画策されていた。
まさに、環境NGO勢力が一気に世論を巻き込み、政府を巻き込み、現実的でないBEVを推進しました。
中国製BEVの台頭で目が覚めた欧州・米国
安価な中国製の「太陽光パネル、バッテリー資源、バッテリーEV車」が席巻しつつあり、BEVをリードするテスラでさえ、バッテリーを中国製に頼っている現状です。
現時点でのBEV普及率やインフラ整備は、当初のロードマップに見合った普及率となっておらず、欧州域内でも2030年、2035年の電動化率達成が、ほぼ厳しい状況となってきました。
- BEVが想定通り売れていない
- BEVの過剰生産、工場生産力の余剰、人員整理
- 中国市場での欧州メーカーシェア低下
- 欧州市場へ安価な中国製BEV流入
- ユーザーは望んでBEVを買わない
- BEVの低価格化に限界がある
- BEVのインフラ普及が遅延
- BEVの性能(高速走行、航続距離、充電性能)の向上が遅延
欧州のBEV転換策は“日本車つぶし説”のウソ:まとめ
フル電動化の施策が、環境NGOにより画策された施策であり、欧州市場・ユーザーの実態・ニーズに見合ったものでない事に気付き始めた状況です。
しかし、地球温暖化による異常気象は、世界中の誰もが体感できるレベルに達し、待ったなしです。
この状況では、トヨタ製ハイブリッド車を再評価することはあっても、欧州施策として完全移行時期を遅らせる・見直しする程度に留まるでしょう。
純内燃車へ回帰、ハイブリッド車へ回帰するような、「内燃エンジン車への逆戻り施策」は有り得ません。
国内メディアのウソは、JBpressの通り
米国では、トランプに対するテスラのイーロンマスクの支援策が報じられ、トランプの反EV施策からの転換の可能性が高いでしょう。
となれば、ハイブリッド一極集中主義の日本車は、延命できない可能性が高まります。
欧州でも中国製EV車を高関税で排除し、欧州製EV/PHEVの普及を支援するでしょう。
中国では、日本製メーカーのシェア低下が報じられています。
日本製ハイブリッド車の「旬な時期」は過ぎ去った
欧州メーカーのBEV販売不振が報じられ、日本製ハイブリッド車勝利に沸くメディアです。
しかし、日本製ハイブリッド車が、世界市場を席捲する状況とはなっていません。
- 欧州委員会の2035年の内燃全廃施策の見直しは実施されず
- 欧州市場では、PHEV/BEVメインとなり、日本製ハイブリッド車のシェア低下
- 自動車最大市場である中国での日本車シェアが大きく低下
- 米国内生産もBEV化の波
- アジア、南米、アフリカでは、中韓製の低価格車が席巻しつつあり、日本製ハイブリッド車はお呼びでない
「全方位戦略、全固体電池、水素燃料電池車、水素エンジン車」など、欧米中韓の自動車メーカーから見れば、日本メーカーの出遅れと迷走が目立つ状況です。
また、日本製ハイブリッド車を絶賛・称賛するような時期はとっくに過ぎているのです。これは、欧州製BEVの低迷ニュースが流れても情勢は変わりません。
「日本車つぶし」と自画自賛する前に、「日本のガラパゴス市場」は、世界の市場とは異なる現状を見直す時期なのです。EV低迷ニュースが流れた今でも、ホンダ・日産がロードマップを変更しないのは、当たり前の事なのです。
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